
vol1. 『エル・デコ』ブランドディレクター 木田隆子さんが聞きにいきました。
「石が暮らしに近い存在になったらいいのにと思いました」。関ケ原石材は、建築物の外装やインテリアをはじめ、さまざまな石材を扱っている会社で、取扱高は日本一。たくさんのビルを手がけています。70年近い歴史を持っているので、会社の中には石にまつわる知識や知恵がいっぱい。面白いエピソードが、あれこれ詰まっているのです。この連載は、石について広く深く知っている関ケ原石材の日比順次さんが、デザイナーやアーティスト、建築家、ジャーナリストなど、さまざまな業界の人をお招きし、おしゃべりするコーナーです。 新装した本連載でトップバッターをお願いしたのは、『エル・デコ』のブランドディレクターを務める木田隆子さんです。世界25カ国で展開している『エル・デコ』の日本版を代表する存在として、多彩な活動を繰り広げています。世界のトップクリエイターをはじめ、さまざまな産地の職人さん、企業の中でデザインにかかわっている人など、幅も奥行きもあるネットワークを携え、第一線で取材を続けてこられました。そんな木田さんが関ケ原石材を訪れ、石にどんな可能性を感じたのか――おしゃべりが弾みました。 木田さん:ここ3、4年、ミラノサローネなどを取材していて、石を取り入れる動きが強まっている、石が持っている自然のパワーを取り入れようという意識を感じてきました。今日、関ケ原石材さんを訪れて、改めて自然物としての石の美しさにすっかり魅了されて(笑)。石が暮らしに近い存在になったらいいのにと思いました。日比さん:ヨーロッパでは、ローマのパルテノン神殿に象徴されるように、古くから石は、暮らしと密接に結びついてきました。一方、日本で建物などに使われるようになったのは、欧米の文明が入ってきてからのこと。たとえば日本橋の三越が大理石でできているように、西欧の文明の象徴的存在として扱われてきたのです。木田さん:日本人が、石と言われて描くイメージには、大きく2つの方向性があるように思います。ひとつは、お城の石垣や石庭など、奥行きのある美の象徴的な存在。もうひとつは、今ほど日比さんがおっしゃった、西欧文化の導入として作られた西洋建築の数々。そこで終始していて、いまひとつ身近な存在と感じづらいところがあるのです。 日比さん:石を知っている人、勉強している人は少なくないのですが、一般の方が暮らしに取り入れるとなると、木などに比べて遠い存在になっているのです。木田さん:もったいないと思います。世の中の大きなトレンドは、自然のものを暮らしの近くにおきたい、日常生活の中で感じたいという方向へ向かっています。日本人はもともと木に馴染みがあるので、石をあまり取り入れてきていないのですが、付き合う方法がわかれば大きな可能性があると思います。日比さん:そういうお話を聞いて、なるほどと腑に落ちます。うちはもともと、企業向けの仕事が多いのですが、最近は個人のお客様も増えていて、そういうお客様の中に、上質な生活=自然という感覚を持っていらっしゃる方もいますから。石は何億年という時間をかけて自然が創り上げたものであり、本物が醸し出す圧倒的な空気感を備えていると思うのです。木田さん:関ケ原石材さんには、大きな石の塊がたくさん並んでいますが、そのパワーにも圧倒されました。日比さん:世界各国で切り出された石の数々で、いずれも地球を相手に、岩盤から人の力で掘り出したものです。木田さん:石の力とともに人の力が宿っているし、語りかけてくる何かがあって、そこに良い意味の畏れがあるのです。それぞれの石には、産地などを記した文字がマーカーで書いてあるのですが、あれも素敵ですね。神社を作る大工さんが、材木に記したあとのような、おごそかな神聖さがあります。 日比さん:無造作なかたちであること、唯一無二であることに魅力があるのかもしれません。自然物なので、同じ種類で同じ場所でとれたものでも、二つと同じ色柄にはならないのです。木田さん:その意味では人の情熱のようなものがこもっているのかもしれません。岩盤から掘り出されていなければ、あれだけ美しいものも、地球の中に埋もれたままになるということですから。日比さん:あの大きな塊を、建築の内外装に使えるように加工するのが、うちの会社が担っている仕事です。木田さん:関ケ原石材さんのお仕事は、石の内側に閉じ込められていたものを掘り出して、宝物に仕立てていくのに近いかもしれません。日比さん:ありがとうございます。そういう石の良さを、もっと多くの人に知ってもらいたい、味わっていただきたいと思っているのです。木田さん:ここに来てもらうのが一番の早道のような気もしますが(笑)日比さん:今の環境で何からできるかを考え、もっと発信していこうと思っています。今日の対談もそのひとつで、もう少しお付き合いいただければと思います。木田さん:こんなものがあったらいいなというアイデアも浮かんできたので、後編ではそのあたりのお話をできたらと思います。(後編に続く)
2021.01.21
Interview